会社設立時に資本金を見せ金にした場合の問題点

会社設立時に、資本金を自己資金で用意できないなどの理由で、見せ金を用意して資本金にあてるケースがあります。

取引先との信用の問題や銀行からお金を借りるために、資本金を大きく見せたいという時にも、見せ金という手法が使われることもあります。

見せ金という言葉は、会社設立について調べていくうちに初めて知った、という方も多いと思いますが、見せ金とはどういうことを言うのでしょうか?

見せ金は違法なのでしょうか?

 

ここでは、資本金の見せ金の意味や見せ金のリスクなどを解説していきます。

この記事の執筆者:宇坪隆夫

 

資本金の見せ金とは?

見せ金とは、会社を設立する際に、自己資金があまり無く、資本金を用意できない人が、お金を借りてくるなどして、資本金が多くあるように見せるお金のことをいいます。

会社を設立する際に、他人からお金を借りるなどして、あたかもそのお金が自分のものであるかのように申告して資本金にします。そして、会社設立が無事に終わったら、すぐにお金を返すというやり方です。

会社を設立するために、見せかけのお金を用意したということになります。

「見せかけ」「見せ金」という言葉を聞いただけでも違法、詐欺といった悪いことをしているという印象を受けますね。

また、会社を設立しても見せ金で資本金としたお金はすぐに返済してしまい、会社にはお金が無いため、資本金としたお金は、役員へお金を貸したという処理しかできず、役員への貸付金が会社設立と同時に発生することになります。

会社設立時の資本金の見せ金の仕訳の方法などは、「会社設立時の資本金の仕訳は難しい?見せ金の仕訳などを解説」を参考にしてください。

 

資本金の見せ金は本当に違法なのか?

会社法という法律の中で、「出資の履行を仮装した場合の責任(会社法第52条の2)」という条文があります。

この条文は、見せ金を使って、資本金を出資した場合には、発起人が全額を支払う義務があって、その支払いをしない場合は、株主としての権利を持つことができないという内容になっています。

つまり、資本金の支払いをしないと、会社法上では違法ということになるということです。

 

また、刑法157条1項に「公正証書原本不実記載罪」という規定があります。これは、公務員に対して虚偽の申し立てをして、登記簿などの公正証書の原本に虚偽の記載をさせる犯罪ですが、この見せ金は、公正証書原本不実記載罪に問われます。公正証書原本不実記載罪の刑事罰は、5年以下の懲役または50万円以下の罰金です。

刑事罰があるのです。法を犯してまで、やる必要があるでしょうか?

 

【会社法】

(出資の履行を仮装した場合の責任等)

第52条の2 発起人は、次の各号に掲げる場合には、株式会社に対し、当該各号に定める行為をする義務を負う。

一 第34条第1項の規定による払込みを仮装した場合 払込みを仮装した出資に係る金銭の全額の支払

二 第34条第1項の規定による給付を仮装した場合 給付を仮装した出資に係る金銭以外の財産の全部の給付(株式会社が当該給付に代えて当該財産の価額に相当する金銭の支払を請求した場合にあっては、当該金銭の全額の支払)

2 前項各号に掲げる場合には、発起人がその出資の履行を仮装することに関与した発起人又は設立時取締役として法務省令で定める者は、株式会社に対し、当該各号に規定する支払をする義務を負う。ただし、その者(当該出資の履行を仮装したものを除く。)がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合は、この限りでない。

3 発起人が第1項各号に規定する支払をする義務を負う場合において、前項に規定する者が同項の義務を負うときは、これらの者は、連帯債務者とする。

4 発起人は、第1項各号に掲げる場合には、当該各号に定める支払若しくは給付又は第2項の規定による支払がされた後でなければ、出資の履行を仮装した設立時発行株式について、設立時株主(第65条第1項に規定する設立時株主をいう。次項において同じ。)及び株主の権利を行使することができない。

5 前項の設立時発行株式又はその株主となる権利を譲り受けた者は、当該設立時発行株式についての設立時株主及び株主の権利を行使することができる。ただし、その者に悪意又は重大な過失があるときは、この限りでない。

会社法−e-Gov法令検索より引用

 

【刑法】

(公正証書原本不実記載等)

第157条 公務員に対し虚偽の申立てをして、登記簿、戸籍簿その他の権利若しくは義務に関する公正証書の原本に不実の記載をさせ、又は権利若しくは義務に関する公正証書の原本として用いられる電磁的記録に不実の記録をさせた者は、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

2 公務員に対し虚偽の申立てをして、免状、鑑札又は旅券に不実の記載をさせた者は、一年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。

3 前2項の罪の未遂は、罰する。

刑法−e-Gov法令検索より引用

 

資本金を見せ金にした場合のメリットとデメリット

見せ金が法律違反である以上、メリットは無いと考えていいでしょう。

デメリットとしては、違法行為であるということは当然ですが、銀行からお金を借れなくなる可能性もあります。金融機関に創業融資などの融資を申し込む場合には、資本金の金額や自己資金の有無などの確認をされるため、資本金の出資者や代表者の預金通帳の履歴を確認されます。その通帳の履歴に見せ金だと思われる入出金があれば、金融機関としては何が行われたかは一目瞭然です。違法行為をしている会社にお金を貸してくれる金融機関は無いでしょう。

また、「会社設立時の資本金の仕訳は難しい?見せ金の仕訳などを解説」で詳しく解説していますが、会社設立時に見せ金を資本金にした場合は、会社の帳簿上は、代表者(出資者)への貸付金という処理をせざるを得ません。貸付金にすると、たとえ代表者といえども、税務上は利息を徴収しなければいけませんし、少しずつでも貸付金を会社に返済していければいいのですが、全く返済できないという状況であれば、代表者に対する役員賞与という考え方も成立しますので、税金の問題も発生してしまいます。

 

まとめ

このように、見せ金を資本金にするメリットは全くありません。

バレないだろうと簡単に考えてしまっている人もいますが、最悪の場合は、刑事罰もある違法であるということをしっかりと認識しておく必要があります。

どうしても資本金を現金で用意できない場合は、「会社設立時の資本金はいくらにすべき?決め方や平均」でも解説していますが、親や親族から資金援助(贈与)をしてもらうことや、現物出資という方法であれば、現金以外のものでも資本金にすることができます。

ぜひ見せ金以外の方法を検討してください。

 

資本金は、大きければ大きいほど、信用力に繋がるのは間違いありませんが、どんなやり方をしてもいいというものではありません。

魅力のある事業にしていけば、出資者も現れる可能性もありますし、クラウドファンディングなどを利用した資金調達も可能になります。

会社設立に向けて、さまざまなリスクをしっかりと把握しながら失敗のない準備をしていきましょう。